マニアックな感想です
神野選手VSモグス選手
今大会の神野選手が5区で出した1時間16分15秒と、山梨学大・モグス選手が2007年の全日本8区で出した55分32秒では、どちらが偉大な記録なのか比較してみました。
もちろんコースも距離も違うし、何よりモグス選手は箱根5区を走った事はないので、直接的に比較する事は不可能です。
しかし、他の選手を介して間接的に比較する事は可能です。
ちょうど今大会で5区2位と快走した日大・キトニー選手は、全日本8区でも快走した事があるので、まずはキトニー選手を介して比較してみます。
全日本8区19.7kmのベストタイム
モグス選手は55分32秒
キトニー選手は57分14秒
箱根5区23.2kmのベストタイム
神野選手は1時間16分15秒
キトニー選手は1時間18分45秒
キトニー選手に対して1km平均で、モグス選手は約5.1秒早く、神野選手は約6.4秒早いという結果になります。
他にも、1996年箱根5区区間賞、1996年全日本8区区間賞の早大・小林選手を介しても比較してみました。
全日本8区19.7kmのベストタイム
モグス選手は55分32秒
小林選手は57分46秒
小林選手の箱根5区のタイムは、後に3回のコース変更がありました。
@ 2000年のコース変更。距離が4m延長。スピードを時速20kmとすれば、0.72秒余計にかかります。
A 2006年のコース変更。距離が2.5km延長。延長後の距離に換算すると1時間18分53秒〜54になります。
B 2015年のコース変更。距離が約20m延長。20mと仮定し、スピードが時速20kmならば、3.6秒余計にかかります。
@ABを総合して考えると、小林選手のタイムは2015年のコースで言えば1時間18分57秒〜58秒と言ったところです。
小数はカットして、1時間18分57秒としてみます。
箱根5区23.2kmのベストタイム
神野選手は1時間16分15秒
小林選手は1時間18分57秒
小林選手に対して1km平均で、モグス選手は約6.8秒早く、神野選手は約6.9秒早いという結果になります。
コース難度の違いから、箱根5区の方が差がつきやすいというのも影響しているとは思いますが、神野選手の今大会の5区の記録の価値は、モグス選手の全日本8区の記録に匹敵するか、超える物だったと言っても過言ではないと思います。
今大会の神野選手の爆走は、箱根だけに限らず、学生駅伝史上における最高のレベルの走りだったと言えそうです。
5区走力タイプの限界
今回、日大・キトニー選手が区間2位となり、前回の雪辱を果たしました。
1万m28分02秒の走力を持つキトニー選手で区間タイムは1時間18分45秒でした。
昨年は東洋大の設楽選手が、1万m27分51秒の走力で、区間タイムは1時間19分16秒(今年からの距離だと1時間19分19秒くらい)でした。
かなり昔の96年大会では、1万m28分09秒の早大・小林選手が、当時の5区を1時間10分27秒で走っていて、今年からの5区に換算すると1時間18分57秒くらいになります。
小林選手は28分09秒で1時間18分57秒
設楽選手は27分51秒で1時間19分19秒
キトニー選手は28分02秒で1時間18分45秒
3人の走力と5区のタイムを見ると、1万m28分前後のスーパーエース選手を5区に投入して期待できるタイムの限界は、1時間19分前後のようです。
もちろん、27分30秒辺りのレベルの選手を投入すれば、区間タイムももっと伸びるでしょうが、それでも机上の計算では1時間18分前後です。
1万m27分30秒と言えば日本記録を上回ります。
日本最強レベルの選手を投入して、神野選手に2分弱も走り負けるならば、5区に投入するメリットはあまりないでしょう。
今大会の神野選手とキトニー選手の結果を見ると、走力で山を上れる限界と、5区はやはり何よりも適性が大事な区間だと感じました。
ちなみに1万m28分00秒で1時間19分00秒になると仮定すると、実際に1時間16分15秒で走った神野選手は、特別な上り適性がない選手に限れば、1万m26分48秒の選手が相手でも、箱根の5区ならば対等に走れる計算になります。
オリンピック種目とまでは言いませんが、クライムハーフマラソン世界選手権とか作って欲しいですね。
世界のトップランナーと互角に勝負する日本人学生選手・・・是非見てみたいです。
復路成績と総合順位、中央学大と日体大について
往路5位復路14位で総合8位の中央学大。
復路14位という成績を見ると、一見往路の貯金を減らしながら復路を耐えたように見えてしまいますが、往路を終えてシード獲得ラインの3分10秒前方に位置し、総合フィニッシュの時点ではシード獲得ラインの4分12秒前方と、むしろ復路で差を拡大しています。
往路17位復路13位で総合15位の日体大。
往路17位でシード獲得ラインの6分23秒後方で初日を終えると、2日目は中央学大を上回る復路13位の成績だったのに、総合フィニッシュの時点では前にあるシード獲得ラインは遠のき、7分9秒差になってしまいました。
中央学大は復路でシード獲得に近づき、日体大は復路でシード獲得が遠のくという結果でした。
シード圏内/圏外が入れ替わるラインは、シード圏内にいるチームは11位のチームがラインになるのに対して、シード圏外のチームにとっては10位のチームになってしまう事が影響しています。
他にも例がないか、過去の記録表を調べたら、3年前の2012年大会にもあったので、それほど珍しい現象ではないようです。
2012年大会でも復路14位の山梨学大が、復路でシード獲得ラインとの差を拡大して、シードを獲得しました。
この時の山梨学大も往路はシード圏内の成績だったので、山梨学大にとってのシード獲得ラインは後方にいる11位のチームでした。
シードを獲得するためには、やはり常にシード圏内でレースを進める事が大事なようです。
復路14位がシード獲得に近づき、復路13位がシード獲得が遠のくという今回の結果を見ると、駅伝の勝負の流れというのはやはり面白いと感じてしまいました。
東洋大・服部選手の快挙
東洋大・服部選手は、全日本のエース区間の2区に続いて箱根2区でも区間賞を取り、全日本のもう一つのエース区間である8区を制した明大・大六野選手に直接対決で勝ちました。
全日本が現在の距離表示になった1990年以降、全日本2区区間賞の選手と、8区区間賞の選手が、そのシーズンの箱根2区で直接対決をした場合、これまではすべて8区側が勝利していました。
服部選手は9度目の挑戦で、初めて全日本2区区間賞の選手として全日本8区区間賞の選手を箱根2区で上回りました。
しかも、箱根2区でも区間賞を取り、総合順位でもトップを奪う完璧な走りでした。
ラウンド1 1990年〜1991年シーズン
全日本2区区間賞 平塚(日体大)
全日本8区区間賞 オツオリ(山梨学大)
箱根2区での対戦結果は
× 平塚 1時間10分25秒 区間6位
○ オツオリ 1時間08分18秒 区間1位
ラウンド2 1991年〜1992年シーズン
全日本2区区間賞 岩本(日大)
全日本8区区間賞 オツオリ(山梨学大)
箱根2区での対戦結果は
× 岩本 1時間12分05秒 区間10位
○ オツオリ 1時間08分40秒 区間1位
ラウンド3 1999年〜2000年シーズン
全日本2区区間賞 古田(山梨学大)
全日本8区区間賞 神屋(駒大)
箱根2区での対戦結果は
× 古田 1時間09分50秒 区間5位
○ 神屋 1時間08分51秒 区間2位
ラウンド4 2003年〜2004年シーズン
全日本2区区間賞 内田(駒大)
全日本8区区間賞 モカンバ(山梨学大)
箱根2区での対戦結果は
× 内田 1時間10分02秒 区間7位
○ モカンバ 1時間09分12秒 区間2位
ラウンド5 2005年〜2006年シーズン
全日本2区区間賞 サイモン(日大)
全日本8区区間賞 モグス(山梨学大)
箱根2区での対戦結果は
× サイモン 1時間11分40秒 区間19位
○ モグス 1時間07分29秒 区間1位
ラウンド6 2009年〜2010年シーズン
全日本2区区間賞 宇賀地(駒大)
全日本8区区間賞 ダニエル(日大)
箱根2区での対戦結果は
× 宇賀地 1時間08分38秒 区間3位
○ ダニエル 1時間07分37秒 区間1位
ラウンド7 2010年〜2011年シーズン
全日本2区区間賞 鎧坂(明大)
全日本8区区間賞 ベンジャミン(日大)
箱根2区での対戦結果は
× 鎧坂 1時間07分36秒 区間3位
○ ベンジャミン 1時間07分09秒 区間2位
ラウンド8 2012年〜2013年シーズン
全日本2区区間賞 オムワンバ(山梨学大)
全日本8区区間賞 ベンジャミン(日大)
箱根2区での対戦結果は
× オムワンバ 1時間09分32秒 区間2位
○ ベンジャミン 1時間08分46秒 区間1位
ラウンド9 2014年〜2015年シーズン
全日本2区区間賞 服部(東洋大)
全日本8区区間賞 大六野(明大)
箱根2区での対戦結果は
○ 服部 1時間07分32秒 区間1位
× 大六野 1時間07分56秒 区間5位
全日本2区がエース区間として考えられるようになったのは1997年大会以降だと思うし、2区区間賞の選手は日本人で、8区区間賞の選手は留学生というパターンが多いのも、8区8連勝の理由ではあります。
しかし1997年大会以降で、日本人VS日本人、留学生VS留学生でも8区側が勝利しているので、これまでは8区こそが真にエースの走る区間と言わざるを得ない状態でした。
2区側の1勝目を挙げた服部選手の走りは快挙と言っても良いと思います。
今シーズンは、全日本の最重要区間がアンカーから2区などの前半の区間へと変わる、ターニングポイントになるかも知れません。
統計について
筑波大学の陸上競技を研究する機関で、統計を使って今年2015年箱根駅伝で勝負が決する区間を調べる試みがされていました。
5区は総合タイムとの相関関係は弱いらしく、2区、7区、9区がとても大事になるとの事でした。
専門的で大変勉強になりました。
私は学生時代に統計学の授業を受けた事があったので、刺激されて自分でも計算してみようかと思ったのですが、教科書を引っ張り出してみたものの、さっぱり忘れていました(笑)
でも統計はヒントになりました。今後は勉強し直して、箱根の区間タイム予想などに統計を使うかも知れません。
特に以前山梨学大にいたモグス選手が、全日本8区で残した55分32秒が、統計的に箱根2区でいうと、どれくらいの価値に相当する記録なのかが気になります。
現在の私のやり方で、平均タイムの比率を使って予想すると、モグス選手の全日本のタイムは、箱根2区で言えば64分台になってしまい、説得力がないのです。
しかし、他の選手に当てはめるとそこそこ合っていたりして、矛盾が生じています。
この矛盾を解消する鍵は統計学にあるかも知れません。
重要区間について
統計のような専門的な予測ではありませんが、私なりに、簡易的に重要区間を調べるやり方があります。
シード獲得と言えば一種の好成績ですが、その好成績をあげたチームの各区間の平均順位から予想するやり方です。
どの区間をより好順位で走っていたのかを調べれば、好成績をあげるのに貢献した区間がわかります。
「好成績をあげたチームが、その好成績をあげるのに貢献した区間」、それは重要区間と同じ意味と考えても間違いではないと思います。
2015年大会上位10チームの各区間の平均順位 (基本的には最高で5.5位)
1区8.3位
2区6.7位
3区6.4位
4区9.4位
5区7.8位
6区7.6位
7区7.8位
8区6.9位
9区8.3位
10区7.4位
これによると、最重要区間は3区という事になります。その後は2区、8区、10区と続いています。
統計による予測とは食い違う部分も結構ありますが、5区が飛び抜けて重要という訳ではなさそうなのは一致しています。
山の神がいる以上は、例え5区のコースが短縮されようとも5区こそが最重要区間だと思いますが、やはり平地区間の2区や3区で勝負をする正攻法の戦法こそ、今年のデータを見ても箱根駅伝には合っている気がします。