2011年7月6日
新宿にナンパをしに行く。かなり久しぶりだった。最近仕事を辞めたり、次の仕事を探したりで非常にごちゃごちゃしていたため、まともにナンパするのは1ヶ月半ぶりだった。
この日は水曜日という中途半端な曜日だったけど、とにかく最近のサボり癖をなんとかしたくて、大人数に声をかけまくって、ナンパの感覚を取り戻したかった。ちょうど3日間連続でナンパに行く時間が取れそうなので、3日で200人くらいに大量声かけをしようと思った。
夜6時50分。新宿1丁目辺りのパーキングメーターに車を停めて、時間を待つ。7時になればここは駐車フリーになる。
20代前半くらいのOL風の女性が通ったので、車を降りて話しかける。あまり車から遠ざかると、7時になる前に駐車禁止で捕まる可能性があるので、「無視してくれ」と願いながら話しかけた。
なぜかこういう時は女性に無視されない事が多い。といっても、女性はかなり警戒していて、
「仕事帰りですか?」
「はい」
「どういう仕事されてるんですか?」
「事務職です」
という味気ない会話だけだった。
この後は忙しいと言う女性。理由を尋ねると、なにかをボソッと口にした。「えっ飲み会?」ときいた火川に、「打ち合わせです!」と女性はあきれたように言って去っていった。
私は耳が悪いというよりは、聞こえ辛い部分を想像力で補完する能力が弱いようだった。飲み会と打ち合わせを聞き間違えるとは自分でもあきれる。
車に戻ると、今度は物凄い美女が通りかかる。完全に外国人。金髪で胸が大きくて、顔立ちは完璧としか言いようがない美しさ。とりあえず日本語で声かけ。通じなかったら、別に良いやと開き直った。ナンパでは、ある意味こういう美女の方が開き直りやすい気がする。
普通に「こんばんは」と話しかけてみたら、外人女性は足を止めて笑顔で話し相手になってくれた。この女性はカタコトの日本語が話せたのでなんとか話は通じた。ポーランドから来ているらしい。間近で女性の顔を見ると、グレーっぽい色の瞳は、その中の黒目の部分にさらに数色の色が入っている感じ。なんなんだろう白人の瞳の輝きって。
ポーランドといえば、以前ポーランドには東京スカイツリー並みの高さの塔があり、それが倒れて壊れたという話をきいたことがあった。その話を女性に伝えてみた。女性は「タワー?ビル?(首都の)ワルシャワ?」と言って。さらにカタコトの日本語で「ワルシャワのビル、すごくブスです」という返事が返ってきた。
どうやら、ポーランドの首都のワルシャワの建造物はあまりデザインが良くないらしい。女性は日本のビルは良いと言っていた。なぜか日本の建造物の話になってしまった。
建造物の話のあと、女性は「スカイプありますか?」と尋ねてきた。スカイプの意味がわからなかったら、女性は「フェイスブックありますか?」と言い直してくれた。残念ながら、私はフェイスブックも名前しか知らず良くわからなかった。会話が止まってしまった。
これ以上は会話が続かず、ここで離れた。最後に「あなたすごく美しい。嬉しかった。アイムハッピー、ユービューティフル」と英単語を並べてみたら、通じたのか、女性は「ワーオ」と歓声(嘲笑?)を上げていた。しかし、白人女性って本当に美人だ。ここまで綺麗だとなにかずるいとすら感じる。
女性と別れた後、「英語の勉強しとけば良かった」とため息をついた。3月と4月にも、新宿ですごい美貌の外人女性と話しをしたけど、意外と外国人美女は愛想の良い人が多い気がする。
7時も過ぎたので新宿駅に向かう。3人目に話しかけた人には無視されたが、4人目に話しかけた女性と会話が成り立った。パッと見は30代ぽかったけど、本人は「私は40過ぎてますから、もっと若い子にした方が良いですよ」と言っていた。この女性は、聖蹟桜ヶ丘に住んでいるそうで、今から帰るらしい。新宿駅に向かって並行して話し続けた。
聖跡桜ヶ丘といえば、アニメの「耳をすませば」の舞台。私は耳すまがすごく好きな映画だった。女性も耳すまのことは知っていて、アニメに出てくる曲がりくねった坂の話などをした。新宿駅について、連絡先を尋ねたら最初は渋っていたけど、電話番号を教えてくれた。
駅周辺で声をかけ続ける。歌舞伎町方向に向かっている20代くらいの普通のルックスの女性がいた。その女性は大きな板のような物を持っていた。絵画のようにも見えたので、そのまま「それって絵ですか?」と尋ねてみた。女性と会話が始まったが、いまいち乗り気ではない様子。質問には答えてくれるけど。
この女性はこのあと飲みに行くらしい。絵を持って行くとは、なにか高級な店でも行くのかと思ったら、そこはゴールデン街(かなり大衆的な雰囲気の飲み屋街)の一角にあるバーだとか。「友達と飲みに行くの?」と尋ねてみたら、「1人で行きます」という返事が。今日も1人らしい。
これはチャンスだと思い、ゴールデン街までくっついていって話し続けたが、すぐに目的のバーに到着。本当に一緒に入ろうか悩んだが、女性はあまり乗り気ではないし、店の前にがらの悪そうな男がいて、ジッとこっちを見ていたのも気になった。そもそもこの女性のなじみの店みたいだし、強引に一緒に店に入っても、気まずい思いをするだけだし。結局バーの前で別れてきた。
声かけを続けながら、移動し新宿駅東口周辺にやってきた。コンビニから出てきて、パンを片手に持った女性に声をかけようとしたら、すぐ目の前のマックに入っていってしまい声かけれず。堂々と食べ物を持ち込むとは良い度胸している人だった。
東口周辺で声をかけ続けた。カップルが歩いていて、その後ろ数メートルの所にいる女の子に話しかけたら、突然カップルの男が振り返ってこっちに向かってきた。ツレだった。すぐに謝って逃げた。
東口の地下で話しかけた金髪の女の子がいた。歳は10代後半くらい。専門学校生で、いずれは本の編集とかに関わる仕事に着きたいと言っていた。一見愛想がよかったけど、世間話をするにつれてドンドン会話が弾まなくなっていった感じだった。
この女の子はこの後お兄ちゃんが迎えにくるらしい。お兄さんのことを尋ねてみると、血が繋がっていないらしい。「良いなお兄ちゃん。俺も君からお兄ちゃんって呼ばれたいよ」と言ってみたら、「お兄ちゃん」と呼んでもらえた。ちょっと嬉しい。
その後は話は弾まず、それでも粘っていたら「私、金髪じゃない人って無理なんですけど」とついにはっきり拒否されてしまった。
新宿駅西口に移動する。この時点ですでに50人以上に声をかけていて、今までの声かけ人数最高記録を更新していた。この日は最初の数人こそは手ごたえがあったけど、その後は空振り続きだった。声かけ人数70人を目指して西口でナンパを続ける。
コンビニの前にいた女性に話しかけようか迷っていたら、店の中からいかつい男が出てきて、女性はその男のツレだった。危なかった。そのいかつい男と女性はコンビニの前に停めてあったプリウスに乗って去っていった。ヤンキーっぽい男が意外な車種に乗っていた。
あっという間に合計声かけ人数が70人に達してしまった。全然成果はなし。
ここで時計を見ると12時を過ぎていて、7月7日の七夕になっていた。ついでなので、あと7人の女性に声をかけて77人にすれば、なにか奇跡が起こるのではないかと思った。
西口周辺で7人に声かけ。その内訳は、
普通に話しをしてくれたけど誘いは断り、連絡先も教えてくれなかった女性が2人、
苦笑いして断りモードの女性が2人、
完全無視2人、
敵意に満ちた目でにらんでいった女性1人。
奇跡は起こらなかった。
今までの最高記録である50人を大きく上回る、77人への声かけを達成したけど、成果はほとんどなかった。
車を停めてある新宿1丁目方向に歩き出すと、下駄を履いて、カンカンと下駄をならしながらバイオリンを弾いている人を目撃。なんかすごい光景。演奏も中々うまい。疲れた心に染み入る不思議な音色だった。
2011年7月7日
それは突然やってきた。
前日77人に声をかけて、この日も70人くらいには声をかけようと思っていた。新宿に向かう。前日とは反対に駅の西側、都庁などがある側に車を停めた。繁華街に向かう。コンビニに立ち寄ると、ついこの日は木曜日だったのでヤングジャンプを立ち読みしてしまった。
コンビニを出て新宿駅方向に歩く。若い女性が通りかかった。・・・・・・・身体が動かない。
慣れ親しんだ新宿の街、一人歩きの女性、このシチュエーションでナンパが出来ないわけないのに、急に身体がすくんで声がかけれなかった。
前日の反動か私は突然、「地蔵病」になってしまった。
通りかかる数人の女性をただ眺めるだけ。
しばらく経ち、なんとか1人目の女性に声をかける。女性はちょっとだけ反応してくれたけど、すぐに黙り込んで小走りで逃げていった。2人目にも声をかけたが完全無視される。いつもならこんな事は当たり前だと思い、全く気にならないのに、今日はやたらとダメージになってしまう。
ここで家族からメールがあった。別に急用というわけではなかったが、これを口実に神奈川県に帰ってしまった。
神奈川に戻り用件を済ますと、まだ時間は10時。「もう一度新宿に行くべきか、でも行きたくない、でも時間があるのにしない訳にもいかない」と悩む火川。仕方ないので地元の川崎でちょっとだけナンパをしようと思った。
川崎の繁華街でナンパをしようとした。やっぱりなにか体調や精神状態がおかしい。異常な緊張感を感じる。
川崎で2人目に声をかけた女性がいた。20代前半くらいの歳で、清楚な雰囲気の女性。今は仕事帰りで、すぐ近くの家に歩いて帰る所らしい。話しに応じてくれたので、くっついて行って話し続けた。女性はあまり乗り気ではなかったが、愛想はなかなか良い。
「部屋に行かせて欲しい」と頼んでみた。女性は「足の踏み場もないほど汚れているから」と遠まわしに拒否だった。
「僕は整理整頓は超得意ですよ。A型ですから」と言ったらウケていた。世間話をしつつ会話を流していたら、女性のマンションに着いてしまった。女性の態度は曖昧で、もしかしたら強引に迫れば部屋に入ることは出来たかもしれない。けれど、この日の弱気な私にはそれは出来なかった。
マンションの1階、建物の入り口。ここに着いた時、私は自分の足がマンションの敷地内に入っていないか足元を気にしていた。一歩でも敷地内に入ってしまったら、不法侵入で捕まるのではないかとそれが心配だった。情けない。
はっきり拒否されたわけじゃないのだから、部屋までついていって、部屋の整理整頓だけして帰ってくれば良かったかもしれない。これでも今までにない良い経験が積めたかも知れないのに。
川崎でナンパを続けるが、異常に身体が重くてだるく感じる。とりあえず川崎で8人に声をかければ、新宿と合わせてこの日は10人に声をかけた事になる。それが達成できれば帰ろうと思った。たったの10人に声をかける事がなんでこれほど難しく感じるのか。自分でもわからない。
川崎で7人目、この日合計で9人目に声をかけて無視される。もう帰りたかった。そんな時、京急川崎に近いアーケード商店街で、40代くらいのスーツ姿の男が、通りかかった派手なギャルに声をかける姿を目撃する。
ユースケサンタマリアに似たその男は、横断歩道の反対側に移動してまた女性に声をかけていた。私もいい歳だが、あの男は私よりも10歳以上は上に見えたが、それでもギャルを堂々とナンパしていた。
他のナンパ師を見ること自体まれだけど、地元の川崎で見れるとは思わなかった。しかもすごく年上で、ソロでギャルに声をかける姿には感動させられた。
2人組みの女性が通りかかり、何も考えずに声をかけた。冷たい反応だった。でもあまり気にはならなかった。
最後の1回の声かけがなかなか出来ず、危うく挫折しかかったけど、ユースケサンタマリアに似たナンパ師のお陰でなんとか10人の声かけを達成できた。
2011年7月8日
3日連続ナンパの最終日。再び新宿へ行く。最低でも40人か50人くらいには声をかけると誓って挑んだ。
ツタヤの前辺りでナンパを開始した。この辺りはガヤガヤしていて恥ずかしさをごまかしやすかった。前日の地蔵病は良くなったようで、身体が軽かった。やっぱり初日に無理した反動だったんだろうか。
数人の声かけの後、勢いをつけるために逆3で2人組みの女性に声をかけた。2人で手をつないでいる女性に話しかけた。「2人仲良いですね!」と話しかける。「2人は親友ですか?めっちゃ仲良いね」と続けたら、女性2人は笑顔を見せてくれたのだが、突然片方が外国語でなにかを叫ぶ。前方数メートルのところを歩いていた男が振り返った。この人たちは外人だった。
慌てて距離を取った。アボジと聞こえた気がしたので、おそらく韓国人だったのだろう。前を歩いていたのはお父さん(アボジ)、あの2人は姉妹だったのかも。
続いて、すぐに通りかかった女子高生2人組みに声かけ。
話しかけると同時に笑い出す2人。どこに行くのかを聞くと、2人でアルタに行くらしい。アルタまでくっついていって話を続けたけど、女の子たちからは「一緒に遊ぶなら、水着を買ってよ」と言われてしまった。なんでも黒いビキニが欲しいらしい。
これじゃただタカられているだけで、全然ナンパではないので、とっとと2人から離れた。
歌舞伎町の近くや西武新宿の辺りで声かけをして、また新宿駅に戻ってくる。ここでキャッチが女の子に声をかけている様子を目撃。電話中の女の子にも話しかけていた。女の子は「大丈夫です」とキャッチに言って断わり、キャッチは断られた後はすぐに離れていたけど、あの積極性は見習いたいと思った。
東口の近くでガードレールに寄りかかって一休憩していると、すぐ近くにいた女の子が気になった。良く見るとかなり可愛い。女の子の持っているスマートフォンからはコードが延びていたので、音楽を聴いていると思い、「何を聞いてるんですか?」と話しかけた。
「・・・別になにも聞いてません」という冷たい返事が返ってきた。良く見ると女の子はイヤホンをしていなかった。スマートフォンから伸びているのはイヤホンではなかった。多分外部バッテリー(?)かなにかのコードだったのかも。
西口に移動して声かけを続ける。
背中をボリボリ掻いていた女性がいたので、「大丈夫ですか?」と声かけ。キョトンとしてる女性に、「もし良かったら僕が掻きましょうか?」と言ってみたら、女性は「なんですか。気持ち悪い!」と言って去っていった。
豹柄の服を着たゴージャスな雰囲気のお姉さんに声をかけた。お姉さんは愛想笑いをした後、歩くスピードをアップする。くっついていって話しを続けようと思ったら、お姉さんは手を前に伸ばし、グイっと、前方を歩いていた男のリュックサックを引っ張った。ツレだった。
予想外の展開に慌てて逃亡する火川。
しかし、本当に予想外だった。そのリュックサックの男は山男のような雰囲気だった。山の男と豹柄の服の女、どういう繋がりなんだろうかこの2人。
声かけ人数が40人を突破し、そろそろ帰ろうと東口に移動する。
東口の繁華街を歩いていると、男が突然、ブワっと大きくジャンプ!着地と同時にパンっと大きく手を打ち鳴らす。近くにいた女性が「キャー!」と驚く。私もびびる。何事かと思ったら、これはナンパだった。ジャンプした男はキャーと言った女性に「どうですかー。この後どうですか」とナンパしていた。
失敗したようだったけど、男はツレの仲間たちの所に戻ると、「お前すげえな」と称えられていた。
びっくりした。あんなナンパもあるんだ。っていうか、一般的なイメージで本来ナンパってこういう性格の人がやる物なんだろう。
なんとなく対抗意識を燃やして、その男たちの前で通りかかった女性に声をかけたが無視される。男たちにも無視される。っていうか多分目にも入ってない。
声かけ人数がこの日は43人に達した。
この3日間で、1日目が77人、2日目が10人、3日目が43人で合計130人とキリが良いのでここまでにした。
この3日間を振り返った感想。
2日目に陥った地蔵病には驚かされた。あれほど急にナンパが出来なくなることがあるとは。同じ街で同じパターンの声かけなのに、前日できた事が突然できなくなるとは思わなかった。川崎で見た40代くらいのナンパ師のお陰で復活できたけど、今までにないほどナンパが辛く感じた1日だった。
目標の200人には届かなかったけど、130人という声かけ人数はまずまずだった。しかし、結果が全然出ていない。最初4人目で連絡先を聞けたけど、その後は126人連続失敗。
声をかける人数ばかり気にして、トークが雑になっている気がした。
そして踏み込みの甘さ。明確に拒否されたわけでもないのに、肝心なところで弱気になり、自分から逃げてしまった。
1日目に絵を持ってバーに飲みに行くと言っていた女性がいたけど、例え気まずくとも、無理やりにバーの中までくっついて行けば良かったのかもしれない。
2日目には川崎で話しかけた女性のマンションまでついていった事があったけど、あの時も明確に拒否されたわけではないのだから、もっと粘って部屋まで行ってしまえば良かったのかもしれない。突然話しかけてきた男が、自分の部屋まで来て、掃除だけして帰って行ったなんて事があれば、女性にとって相当インパクトがあったはず。特にこの日は七夕だったわけだし。
他には、声をかけた女性に男のツレがいた、というケースがこの3日間で3件もあった。今までそうそうないパターンだったけど、なぜか同じような出来事は連続する傾向がある気がする。
(この3日間の体験談は7月20日にまとめて文章化。もっと早く書かないと。これも今後の課題だった。)
2011年7月22日
新宿にナンパをしに行ったけど、ちょっとやり方を変更した。軽く散歩する感覚で新宿の街を歩き回り、街を一周する間に20人くらいに声をかけようと思った。散歩をメインと考える事で肩の力を抜いて挑もうと思った。
どうも最近ナンパに対する抵抗感が強い。今年の春には全然人の目が気にならなくなった時期もあり、「無敵感」すら感じていた事もあったのに。
最近はまた元に戻ってきてしまった。ナンパって成長しづらい。
西新宿で声をかけ始め、4人目に声をかけた女性と家電販売店のLABIの前で話し込む。
女性はLABIの前で立ち止まっていたので、新しく出来ていたLABIの話から入った。「いつのまにか出来てたんですね。入り口って向こうですか?」と声をかけた。女性はこの後は会社の飲み会があるらしく、まだ早いので時間を潰していた。暇つぶしに会話に付き合ってくれた。
女性は営業の仕事をしてるらしい。最近仕事で使う車を軽トラックに変えられてしまい、乗り心地が悪くて最悪だと言っていた。雑談のあとに連絡先を尋ねてみたけど、彼氏がいるらしく断られる。ここで別れる。
もっと時間をかけて粘れば結果は違ったかも知れないけど、とっとと散歩の続きをしたかった。
正直に言うと、この日は全く気が乗らなかった。とっとと新宿を一周歩き回り、20人くらいへの声かけを終えてさっさと帰ろうと思っていた。
新宿駅西口で通りかかる女性数人に声をかけて、東口に向かうガードに向かった。ガードに差し掛かった時、かなり目立つ女性が通る。
茶髪で、巻髪をゆるくしたようなパーマの髪型、背が高くてすらっとしたスタイル、顔立ちも良くてメイクも派手。レベルが高そうなギャル系の女性だった。しかもイヤホンをしてるから話しかけづらそう。
「この人はちょっと無理かな」と思いつつも、とっとと玉砕して次行こうと開き直って声をかけた。この日8人目の声かけ。
声をかけると、女性はイヤホンを外してくれて話しが始まった。女性は名前をYちゃんと言った。
Yちゃんはくだけた笑顔を見せてくれた。ツンとした美形ギャルに見えたのに、意外なほど愛想が良い。
Yちゃんから「どこから出てきたんですか?」と尋ねられる。
「今すれ違ったんだけど、話しをしたらすごく楽しそうな人って感じたから、度胸試しに話しかけた」と伝えてみた。また笑い出すYちゃん。
何の変哲もない普通の話しでもすごく嬉しそうな笑顔を見せてくれる。他にもイヤホンでなんの音楽を聞いていたのかを尋ねたら、アメリカの女性シンガーの曲だと教えてくれて、イヤホンを私の耳にあてて聞かせてくれた。
玉砕するつもりで声をかけたのに、意外と話が長続きしてしまい、今更ながら緊張してくる私。Yちゃんは話し相手が欲しかったようですごく嬉しそう。
正直言って私は散歩の続きに戻りたかった。本当に玉砕しようと思い、すぐに酒に誘ってみた。断られたら散歩の続きに戻れるしそれで良いと思った。
Yちゃんが甘いものが好きと言っていたので、「甘いお酒飲みに行こうよ」と、全然ひねりのない言葉で誘った。すると「良いお店知ってますか?」という返事が返ってきた。
えっ来るの?と心の中で突っ込んだが、自分から誘った以上行かざるをえなかった。
今更ながら火川は酒があまり好きではない。たまに家で1人で飲む事はあるけど、飲み屋で他の人と一緒に飲むなんてあまり考えたくない。いくら美人が一緒でも。
本当はカラオケ屋に誘いたかったのだが、音楽の話をしていた時に、Yちゃんから「音楽聞くのは好きだけど、音痴だから歌うのは嫌い、カラオケも嫌い」と言われていたので誘えなかった。
私は「むこうに良い飲み屋あるよ」と適当な事を良いながら、Yちゃんと一緒に歩き始めた。100メートルも歩くと偶然に白木屋と笑笑を発見する。
私は今まで店で飲んだ経験があまりなく、白木屋や笑笑ですら過去に1回ずつ入ったくらいだった。「ここに甘くて美味い酒はあるのだろうか?」と悩む。それ以前に、Yちゃんが派手なルックスの美人だけに、「こんな安い居酒屋に誘ったら怒るのではないか?」と不安も感じた。
結局不安は杞憂だった。白木屋に入ろうよと伝えると、Yちゃんは全く問題なく着いてきた。
チューハイを2杯飲みながら、色々話しを聞いた。まず驚いたのはYちゃんは3/4は中国人だった。ハルビン市という街の出身で、おじいさんが日本人らしい。
中国残留孤児の子孫という扱いで、日本国籍はあるからYちゃん自身は正式に日本人という扱いになるらしい。Yちゃんの名前の響きも日本人名だし。ちょっと言葉の発音が不思議だったからどこか地方の人かと思ったけど、国外育ちの人とは思わなかった。
納得した部分もあった。Yちゃんのスタイルの良さは確かに日本人離れした雰囲気があった。すらっと細いのに胸は大きいし。ハルビン市はロシアに近い場所にあると言っていたので、もしかしたらロシア系の血も入っているのかも。
Yちゃんは今は板橋区に住んでいて、昼間は歯医者で使う金属の詰め物や金歯などをあつかう仕事をしているらしい。倉庫関係の仕事は私も色々ピッキングやら仕分けやらやっていたのでYちゃんとは話しが合った。
Yちゃんに今日新宿に来ていた理由を聞くと、「お父さんとケンカして家を出てきた。朝まで遊んでやるんだ」と言っていた。26歳になった今でもまだ子供扱いされて腹立たしいと言っていた。
他には、横浜中華街の味について、Yちゃんは「食べに行ったけど上海料理を日本人好みにしたような味付けに感じた」と言っていた。本場の中華とは味が違うらしい。
Yちゃんとの話は楽しくて、慣れない店での飲みにも関わらず結構楽しめた。Yちゃんからも「外人を差別しない人なんだね」と私の事が気に入ってくれたようだった。
白木屋を出た。会計はたったの2000円ちょっと。私がおごった。
白木屋は建物の2階にあったので、エレベーターで下に降りる。このエレベーターの密室の中で抱きしめてキスをしようとしたが、顔を背けて拒否された。居酒屋での会話から、すぐにゲットできるタイプかと思ったのだけど甘かったようだ。
建物を出た。抱きしめた勢いで、そのまま肩に手を回したままだった。キスを拒否したYちゃんは意外と嫌ではなかったのか、肩を抱き寄せたままでもなにも言わなかった。Yちゃんの肩を抱き寄せたまま新宿の街を歩きまわった。
駅の階段では左手でYちゃんの左肩を抱き寄せたまま、右手でYちゃんの右手を握ってみた。我ながら不思議なポーズ。Yちゃんは手をギュッと握り返してくる。駅の地下を歩いている時に、隙をみて物陰に引っ張り込んで抱きしめてみた。エレベーターの時と同様にやっぱり拒否された。ガードが甘いのか固いのか判断がつかない。
物陰とはいえそこは新宿駅。人通りは多かったのでそれが気になったのかも。
2軒目の店に行こうという話しだったけど、Yちゃんは六本木に行きたいと言い出した。元々新宿の後は六本木のクラブに行く予定だったらしい。すでに時間は0時を軽く過ぎていて、終電まで時間がギリギリだった。
六本木のクラブなど行きたくない私はなんとか、新宿で遊ぼうとYちゃんを引きとめたが、Yちゃんはどうしても行きたいらしい。駅員に聞くと、終電までは後数分だった。
六本木に行く地下鉄大江戸線は、現在いる東口ではなく、反対の西口に行かなければ行けないらしい。しかも地下通路は23時で閉まっているので、一度地上に出ないといけない。
小走りで西口に向かうYちゃん。そのYちゃんと一緒に走りながらも「よし、これは間に合わなそう」と喜ぶ私。しかし予想外に早く西口についてしまう。
西口でも大江戸線の改札はかなり奥にあり、そこまで時間がかかりそうだったが、それでもギリギリセーフになってしまいそうな雰囲気。さっきまで余裕をかましていたのに途端に焦る火川。
そうこうしている間に改札についてしまった。やばい。本当にどうしよう。本気で悩む火川。駅員が「最終電車です」と声をあげて、こっちに急ぐように催促する。
「ユウキも一緒に行こうよ」と、甘ったるい声で誘ってくるYちゃん。すごく可愛い。Yちゃんと一緒に居たい。でも六本木・・・クラブ・・・。悩んだ末に私が出した答えは、
「ごめん、ちょっとお腹痛くて。体調が悪いから踊るのはちょっと」と断ってしまった。
改札に入るYちゃんを見送って別れた。
「さあ散歩の続きでもするか」と、Yちゃんと出会った場所に向かい、新宿を一周散歩しながら20人くらいに声をかけるという、今日の予定を続けようとしたが、途端に身体が動かなくなってしまった。全くナンパする気がおきない。
結局Yちゃんには連絡先もきけなかった。
本来、今は女性の連絡先をきいてその人と再会する、というのを目標にしているので、連絡先をきくのは最重要課題だった。再会できるかどうかはともかく、いかにもYちゃんは連絡先を教えてくれそうだったのに尋ねなかった。
私はYちゃんの色香に負けて、ついついゲットする方向で行動してしまい、「中途半端に連絡先をきいたらしらけるかも」と、先延ばしにしてしまった。
「どうせ終電に間に合わないだろう」とタカをくくっていたら、間に合ってしまい、連絡先を尋ねる間もなくお別れになってしまった。
コンビニの前で呆然としながら時間が過ぎる。数時間が過ぎ、朝方家に帰った。
後日談だが、この後1週間に渡って、Yちゃんの連絡先をきいていない、自分の連絡先を教えていないにも関わらず、携帯を手に取って眺めながら「は〜・・・Yちゃん・・・」とため息をつく火川。
間違い電話でも良いから、Yちゃんから連絡が来ないかなと、ありえない妄想をしてため息をついてた。本当にルックスの良い女性だった。六本木にびびって逃亡した私はバカだった。
(2016年 追記)
最近日中関係が悪いので、当時は書いていなかった和めるかも知れないYちゃんとの会話を一つ公開。
居酒屋にて
火川「こんなに可愛いんだから、中国の男の子はみんなYちゃんに夢中だったでしょう?」
Yちゃん「中国の男の子が夢中だったのはドラゴンボールだったよ」
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